ナッジ・スラッジとは?

象の親子。鼻で子供の背中をそっと押して気づきを与えている

ナッジ(nudge)とは、英語で「軽くつつく、行動をそっと後押しする」という意味の言葉である。

行政やビジネスシーンでは「経済的なインセンティブや行動の強制をせず、行動変容を促す戦略・手法」であるナッジ理論として知られており、幅広い場面での応用が注目されている。

そこで本記事では、ナッジ理論の基礎知識から、テクニック、代表的なフレームワークなどをわかりやすく解説する。

1.ナッジとは

ナッジ(nudge)とは、人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けすること。

・ナッジは行動経済学の理論

ナッジ(nudge)は、アメリカのシカゴ大学リチャード・セイラー教授が提唱した行動理論である。

目的は、人々を強制せずにきっかけを与え、本人が無意識によい選択をするように誘導すること。

2.ナッジの基本的なテクニック

ナッジについてなんとなくは分かったけれど、自分の状況に合わせたナッジは思い浮かばないという方もいるかもしれない。

その場合はナッジの基本的なテクニックを学び、自社のマーケティング戦略に落とし込むとよいだろう。

ここでは、4つの基本的なテクニックを紹介していく。

①デフォルト(初期設定)

とってほしい選択を最初から設定しておくことで異なる選択をとる可能性を低くするテクニックのこと。

例えば、Amazonではプライム会員の加入を促すために無料期間を設けている。

無料期間中に加入した人はいつでも解約はできるが、そのまま継続してしまう人もいるだろう。

このように会員となっている状態をデフォルトにすることで、解約時に手間がかかるため、なんとなく続けてしまう人が多くなる。

②フィードバック

特定の行動を起こしたらすぐに反応が返ってくる仕組みを作ることで、自発的に行動を起こすよう誘導するテクニックを指す。

例えばネットショップの会員登録を行う入力フォーム上で、電話番号を全角で入力したとき、画面上に「半角で入力してください」と出てきたとする。

その結果、住所を入力する際は最初から半角数字で入力を行うだろう。

③インセンティブ(動機)

特定の行動をとった際にメリットを与えることで再度その行動を促すテクニックのこと。

例えば、飲食店のポイントカードもインセンティブの一つである。

④選択肢の構造化

複雑な選択肢をわかりやすくすることで、特定の選択肢に導くテクニックのこと。

例えば、レストランのメニューには「店長オススメ」や「期間限定メニュー」といった文言が掲載されている。

こういった案内があることで、大量にあるメニューから選ぶべきメニューが絞られて消費者が選択しやすくなる。

3.ナッジの構成要素

ナッジの構成要素に「EAST」というフレームワークがある。

ここでは、EASTについて説明していく。

  1. Easy(簡単)
  2. Attractive(魅力的)
  3. Social(社会的)
  4. Timely(ベストタイミング)

①Easy(簡単)

「Easy」は行動の難易度を下げること。分かりやすいあるいはとっかかりやすいという要素がナッジにも必要である。

たとえば難しい内容が大量に書いてある資料より、ポイントを抜き出したような分かりやすい資料のほうが、読み進めやすいもの。

英語や漢字にフリガナをつけたり、和訳やひらがなを適度に組み込んだりすると、資料を読むという行動の難易度を下げられる。

また選択肢を狭めて行動へのハードルを下げるのもひとつの方法だ。

手軽に回答できるように、アンケートの回答欄を減らすあるいは選択式にするようにしたところ、回答率が上がったという事例がある。

②Attractive(魅力的)

「Attractive」は魅力的な選択肢を用意すること。多くの人は魅力的だと感じる選択肢を選ぶ傾向にある。

そこには損失を避けたいという気持ちが含まれているのである。

たとえば何かを得る喜びと何かを失う痛みを天秤にかけたとき、無意識に失う痛みを避けようとする行動が該当する。

ある地域の企業が、空き瓶を拾って回収に協力すると報酬が得られるリサイクル機を設置した。

しかし空き瓶が回収されなかったため、リサイクル費を上乗せして販売したところ、多くの人が空き瓶をリサイクルするようになったのである。

これは損をしたくないという心理を後押しした例といえるだろう。

③Social(社会的)

「Social」は社会的な行動だと意識させること。人は「周囲の人々が取っている行動であれば自分も同じように行動しよう」と考える傾向にある。

「これだけの人がやっています・あなた以外の人はこちらの選択をしました」など、ほかの人がどのような行動を取ったか伝えるだけでも、よい行動へ誘導できるのである。

④Timely(ベストタイミング)

「Timely」は適切なタイミングで行動を促すこと。行動を起こそうとするタイミングは人によって変わるもの。

またタイミングを狙うだけでなく、優先事項として上位に入るようにタイミングを調整するのも大切だ。

たとえば生命保険加入の場合、社会人になった1年目の時期と結婚が決まったときに加入する人が多いという統計がある。

ライフステージが変わった際、今後の人生を考える機会が増えるからだと考えられる。

この4要素を意識することで、人の行動を誘導しやすくなる。

本サイトでは各事例に対して「EASTチェック」として、その要素を満たしているかのチェック表を載せている。

4.スラッジとは

「スラッジ(Sludge)」とは、私利私欲のために人々の行動を促したり、より良い行動をはばんだりする仕組みのこと。

スラッジは、英語で「ヘドロ」や「泥」を意味し「負のナッジ」ともいわれる。

スラッジには2種類あり、

①本人にとって不利な方向に行動を誘導すること

②本人にとって有利な行動を取ることを妨害すること

1のうち、特にインターネット上のショッピングサイト等のインターフェースで見られるものを「ダークパターン」とよぶ。

「ダークパターン」は、2010年頃から注目されるようになり、近年では世界的に問題視され、すでに規制の対象となっている国もある。

②は意図的かどうかに関わらず、本人が取りたいと思っている行動を阻害すること。

例として手続きを複雑化させたものなどが挙げられる。